問いを渡す人

図面は美しい。
計画書は、いつも完璧に仕上がります。数字は揃い、工程表も整い、上司への説明にも破綻がありません。それなのに、いざ実行の段になると、足が止まる。「決断力が足りないからだ」という声を、私はよく耳にします。管理職としての胆力が甘い、覚悟が足りない、と。しかし私は、少し違う見方をしています。設計図を描く力と、それを現実に押し出す力は、そもそも別の筋肉なのではないでしょうか。動けないのは弱さではなく、最後にもう一押ししてくれる相手が、そばにいないからです。
「決断力不足」という診断のズレ
具体的な例を挙げます。ある工程表を三日かけて磨き上げた管理職がいました。数字の整合性は完璧で、リスクの洗い出しにも漏れがありません。ところが、いざ現場に発表する段になると、資料を開いたまま手が止まりました。周囲は「決断力が足りない」と評しましたが、彼は計画を疑っていたわけではありません。頭の中で次々に浮かぶ反論――「この順番で本当に混乱は起きないか」「誰かに聞かれたらどう答えるか」――に、一人で相槌を打ち続けていただけなのです。
設計と実行は、盤面の見方が違う
設計とは、盤面全体を俯瞰し、まだ動いていない駒の可能性を比較検討する作業です。一方、実行とは、駒を一つ盤に置き、後戻りできない状態を自ら作り出す作業です。俯瞰する目と、踏み出す足は、使う筋肉が違います。俯瞰する力に長けた人ほど、実行の場面で立ち止まりやすいのは、むしろ自然なことだと言えるでしょう。